マスカーロス大陸の一地方、ミルフィスの町外れの丘には一軒の古い館が建っている。町の住人の曰く、そこは魔法使いの住む館であるという。
一人の男がそこに住んでいて、その男は出歩くことは少なく、口数はさらに少ない。その醸し出す雰囲気から、住人は彼を魔法使いだと思っていた。

　彼らの考えは、あながち外れてはいないだろう。
事実そこの主は、確かに「魔術師」というものであったし、館にこもっている時間は主に魔術を執り行っていた。

　しかし、この町の気風からか、はたまた魔術師の社会的地位からか、そんな変わり者の魔術師であっても、好奇の対象にはなれど蔑視されることなどは決してなかった。
住人が彼に近づかないのは彼の研究の邪魔をしないためであり、またその魔術師も町の人間には悪意など持ち合わせていない。

だから、たまに魔術師が外出するときも、町の人間はそのことが当たり前であるかのように好意的に接するのだった。


　そういった、相互の関係の中で魔術師はとある研究に明け暮れる日々が続いていた。



　この物語は、そんな魔術師の住む館の地下、薄暗い研究室の中からすべてが始まる。

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